大分大学グローカル感染症研究センター(Research Center for GLOBAL and LOCAL Infectious Diseases)は、感染症に関する全学的な研究力強化を戦略的に推進する体制として、2021年10月1日に、本学初となる全国共同利用研究施設として設置されました。
本センターには、4つの研究部門を設置し、本学の国際的な感染症研究に従事する教員及び本学に蓄積された研究成果等を集結させたうえで、先進的な感染症に関する研究を推進するとともに、医学部関連講座とも連携し、新薬の開発なども積極的に展開する計画です。
特に、グローバルな視点からの海外渡航医療・医学や微生物ゲノム解析を研究領域としている点や、創薬までを含めた臨床と基礎研究を併せて遂行できる点が本センターの特色の1つであり、全国に先駆けたモデルケースとなり得ると考えています。
研究力強化のための計画の1つとして当センターが共同研究公募(学外研究者と本センター研究者による共同研究の公募)を主催し、全国から共同研究者を本センターに集めることでオールジャパン体制での感染症研究を推進すると共に、若手研究者の育成を図ります。
将来的には、本センターの特色となる「新興・再興ウイルス・細菌感染症」、「創薬」を活かし、九州圏内の関連大学と連携を進めるなど、ネットワーク型の共同利用・共同研究拠点を目指します。

センター長挨拶
このたび、2026年4月1日付で、大分大学グローカル感染症研究センター長を拝命いたしました、山岡𠮷生です。
感染症は、もはや「海外の問題」と「地域の問題」を切り分けて考えることのできない時代に入っています。人やモノの移動、地球環境の変化、薬剤耐性の拡大により、グローバルな課題は直ちにローカルな課題となり、また地域で生じた問題は世界へとつながります。だからこそ本センターは、その名のとおり、GLOBALと LOCAL を結ぶ視点から感染症を捉え、研究、教育、医療、社会実装へと結びつける役割を担っています。
本センターは、4つの研究部門を基盤とし、令和8年4月現在、専任10名、兼担14名の体制のもと、感染症研究の推進に加え、共同研究、公募型研究、共同利用、受託検査など、学内外に開かれた研究基盤を整備してきました。今後も、多様な専門分野を有機的に結びつけながら、本学における感染症研究の中核としてその機能をさらに強化してまいります。
私自身はこれまで、ピロリ菌感染症を中心に、分子疫学、全ゲノム解析、病原因子や薬剤耐性因子の探索、さらには胃がん予防へつながる研究を国内外で進めてまいりました。今後は、こうしたピロリ菌研究の蓄積を礎としつつ、胃内マイクロバイオータ、宿主応答、発がん機構を含めたより広い消化管感染症研究へと発展させ、国際共同研究を一層推進していきたいと考えています。ブータンにおける胃がん予防の社会実装、アフリカにおけるピロリ菌・マイクロバイオータ研究ネットワークの形成も、その重要な柱の一つです。
一方で、「グローカル」は海外展開だけを意味するものではありません。大分県、九州、そして日本の地域社会に根ざした感染症対策、薬剤耐性菌への対応、新興・再興感染症への備え、危機管理、診断・治療法開発もまた、本センターの大切な使命です。地域で生じる課題を丁寧に拾い上げ、その知見を国際研究へつなぎ、逆に世界で得られた知見を地域へ還元する。この双方向性こそが、グローカル感染症研究センターの存在意義であると考えています。
今後は、共同研究と共同利用のさらなる充実を図りながら、九州を基盤に国内外を結ぶネットワーク型の共同利用・共同研究拠点として発展し、地域の安全・安心に貢献すると同時に、世界の感染症課題の解決にも資する研究拠点を目指してまいります。皆様のご支援、ご指導を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
山岡 𠮷生

部門
インバウンド・アウトバウンド医学研究部門
国境を越えた感染症の侵入とその防疫に資する視点から、渡航医学・ワクチン学・国際保健医療学などに関わる研究と医療を実践します。さらに、今後の短期間での新興感染症の流行拡大や、慢性感染症の潜在的な感染拡大リスクに対応すべく、国際感染症研究を推進し、海外感染流行地での臨床研究と基礎研究の連携を図ります。
部門教員
ワンヘルス研究部門
感染症を人のみならず動物・環境とともに考える「ワンヘルス」の視点から捉え、感染性微生物のゲノム情報を患者、動物、環境中から素早く探知し、それらの情報を検査データとして臨床現場にフィードバックします。さらに、国際的なラボネットワークを用いて新興・再興感染症の疫学調査等を国際共同研究として推進します。
部門教員
感染症病態研究部門
これまで本学で進められてきた細菌学、ウイルス学、寄生虫学、感染免疫学の研究の更なる進展と他大学との共同研究により、新たな分子基盤などに根ざした感染症病態研究を推進します。さらに、新興・再興感染症病原体の診断や病態解明のための基礎的研究から得られた知見を基に感染症に対する創薬研究を行います。
部門教員
ゲノムワイド感染症研究部門
本部門では、次世代シーケンサーやポータブルシーケンサー等を駆使して、世界中の感染流行地または足元の県内から得られた検体から、対象とする細菌、ウイルス、寄生虫の全ゲノム解析を行います。特に微生物側のゲノムワイド関連研究を展開することで、未知の病原因子、未知の抗菌薬耐性因子の発見、さらに新規治療法の開発にも寄与します。
部門教員
研究支援部門
部門教員
- 講 師 カーン シャキル (専任)
- 専門分野:ウイルス学、感染症疫学、神経感染症

主な特色
狂犬病研究
国内で唯一の医学系狂犬病研究施設として、基礎研究成果にもとづく有効なワクチンや抗ウイルス薬の開発を目指しています。さらに本学とフィリピン共和国との長きにわたる学術交流実績を基盤として、JICAとAMEDによる「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」事業において、フィリピン国内から不治の感染症である狂犬病の撲滅を目指す取組も進めています。この事業の知見を活かし、「ワンヘルス」とNTDs制御の視点から動物の狂犬病対策とヒトの狂犬病発症予防治療に活かす人獣共通感染症研究を進め、WHOと狂犬病制御グローバルアライアンス(GARC)からの受託研究も実施しています。
ピロリ菌研究
大分大学では、長年発展途上国におけるピロリ菌の分子疫学研究を行い、実際に現地に出向いて内視鏡検査を行った国は14か国を数え、延べ1万株以上の世界最大規模のピロリ菌バンクを擁しています。
次世代シーケンサーを用いたピロリ菌の全ゲノムを用い、新規病原因子をゲノムワイド関連解析(GWAS)にて探求、さらに同じ手法で、新規抗菌薬耐性遺伝子変異を解析しています。候補遺伝子の機能解析では、オルガノイドを用いた解析などを行っています。さらに、より臨床疫学的に、発展途上国における胃癌撲滅対策(1次・2次予防対策)をブータンにて展開する計画としており、令和3年度「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」事業に採択されました。
感染症に対する創薬研究
臨床薬理学講座内のtranslational Chemical Biology(TCB)研究室が中心となり、様々なウイルス非構造タンパク質を標的とした創薬による阻害剤開発に取り組んでおり、この中で既に狂犬病治療薬の候補薬物の同定に成功しており(特許第6679059号)、他のウイルス感染症治療薬へも応用を進めています。
渡航医学に関する研究・診療活動
日本渡航医学会認定医療職として渡航外来診療に根差した研究を行います。新型コロナウイルスワクチン等の海外渡航時に求められるワクチンに関する国内外における臨床研究、帰国者からの相談、ガイドラインの作成、新ワクチンの国内導入などに関わり、別府市の立命館アジア太平洋大学(APU)の保健管理医として外国人留学生の感染症制御業務にも携わっています。
感染免疫学研究
遺伝子改変マウスを用いた新興感染症病原体感染時の免疫応答の解析や重症化メカニズムの解析や蚊媒介性感染症研究を行っています。
新型コロナウイルスに関する研究
新型コロナウイルスのウイルスゲノム解析により自治体の検査部門(大分市、大分県衛生環境研究センター)と共同して、変異株ゲノム出現の早期探知に向けた疫学研究を開始しています。
マルチハザードへの対応
豪雨災害、地震災害さらには感染症の拡大と大分県に迫る脅威は多様化し、これまでの単一の災害対策ではなく、複合的災害に対応できる危機管理体制の構築が喫緊の課題となっています。本学の減災・復興デザイン教育研究センター、医学部附属病院高度救命救急センターと連携し、マルチハザードに対応できる危機管理システムの構築と社会実装を目指すとともに、被災地支援や被災地・感染症流行地における医療体制の確保という視点も盛り込んだ取り組みを実施します。